ミステリアスブルー

印刷会社に入社するまで、世の中にこれほどまでにたくさんの色が存在するとは意識したことがありませんでした。青は青だと思っていた。ところが知れば知るほど、同じ「青」でも無数の青が存在することがわかり、しかもそのすべてにご丁寧に名前まで付けた人がいるのですから驚きです。

アオという漢字一つとっても「青」と「碧」、さらに「蒼」という字まで。すべて異なるアオです。「青」はスカッと晴れ渡る空のようなアオ(「晴」という漢字にも「青」が入っていますね)。「碧」は少し緑がかったブルーグリーンのような印象。「蒼」はどちらかというとグレーが混ざったような、くすんだアオでしょうか。

私が万年筆が好きなのは前述の通りですが、その延長線でインク集めにも凝っています。中でも私が好んで使用するのはブルーブラック系のボトルインク。ブルーだと青すぎる。ブラックだと黒すぎる。その中間色としてのブルーブラックがちょうどいい。

しかし、ひとくちに「ブルーブラック」といっても、これまた無数のブルーブラックが存在するわけです。メーカーによって黒寄りのブルーブラックだったり、青寄りのブルーブラックだったり、若干グリーンが顔を出したりと様々。もうこの沼にハマってしまうと、とことん自分に合う色を追求して付き合うしかない。

そのような中で出会った、とりわけ好きな色はウォーターマンの「ミステリアスブルー」というブルーブラック系の染料インク。

先ほど考察したアオの漢字の中では「蒼」が一番しっくりくる、グレーがかった黒に近い色ですが、書き終えた後、時間の経過とともに変化し、徐々に緑がかった「碧」に寄ってきます。

その変化のグラデーションが不思議で、速記の具合や紙の質感、その時の湿度などに左右されるのでしょうか、ついには紙にしたためる瞬間の感情までもが色に乗り、その「時」を封じ込めるような感覚で紙に遺るのです。まさにミステリアス。

常に迷い、答えを求めている。そして紙と出会い融合し、落ち着くべき色に定着していていく。ミステリアスブルーの不思議な魔力に導かれ、深いアオの底へと浸っていく私。決してスカッと抜けないアオが、陰に言葉を紡いでゆくのです。

私の好きな色。ミステリアスブルー。

集めたインクにはそれぞれ想いがあるので、いずれ「モノ語り」の記事で一本ずつレビューしていけたらいいなと思います。無限のアオ。その色の違いを言葉だけで表現するのは非常に難しいのですが…。それもこのサイトの醍醐味ということで。