酪農現場で行われる安楽殺は、鎮静剤を打ったあと逆性石鹸を静脈注射する方法です。牛は抵抗せず、苦しむことなく静かに息を引き取ります。ほんの一瞬で。
安楽殺とは、能動的に他者の命を終わらせること。判断は獣医師ではなく畜主である私が行います。昨日、後手後手の牛を安楽殺しました。
私の中の判断基準。
自分のこれまでの経験と、獣医師の見解で治療効果が見込まれるかどうか。時間の経過と共に苦痛が軽減しているのか、それとも増しているのか。その条件の交差点で、これ以上、苦しませたくないと思った時が決断の時です。
たとえ僅かな希望でも治療の効果が出るかもしれない。もしかしたら苦痛を取り除いてあげられるかもしれない。常にそう考えます。しかし、その段階までくるとうまくいかない例の方が圧倒的に多く、判断が遅れれば遅れるほど牛を苦しませることになってしまうのです。
他者の命を能動的に終わらせる。畜主と家畜の関係であったとしても、自分にそのような権利があってよいのかと違和感を拭えません。すべての責任を放棄したくなる。
しかし最後は、目の前で苦しむ牛を見て、本能的に私が今すぐ終わらせたいと思うのです。その考えに抗うことはできません。そして終わったあとの後悔もありません。
一つ言えることは、このような判断を下さなければならない状況をつくってはならないということ。「後手後手」の記事でも書きましたが、経験を総動員してリスクを回避する手立てを講じなければなりません。
もう二度と、このような思いはしたくないので。
