50頭の牛と付き合っていると、性格がそれぞれに違うことがわかります。せっかちな牛もいればのんびり屋の牛もいます。牛たちの健康管理を万全に行うためには、一頭一頭の個性を知ることが最も重要なのです。
たとえば牛舎での餌の食べ方ひとつとっても牛によって全然ちがいます。
ある牛は私の行動をよく見ていて、私が餌やり用のカートに手を伸ばすと同時に首を縦に大きく振り力強く要求します。今にも飛び込んできそうなくらい前のめりになって私に餌を催促します。
一方、怠け者の牛もいます。ぎりぎりまで立ち上がろうとせず、見て見ぬふりをします。横目で私の後ろ姿を見送ると黙々と食べ始めて、あっという間に平らげてしまいます。
後者の怠け者の牛は一見すると元気がなく見えるので、初めて接した人は「どこか体調が悪いのかな?」と思うかもしれません。何かの異常なのでは、と。しかしこれがこの牛にとって「通常」なのです。四六時中このような態度で健康に乳生産を続けています。
このように、何が異常なのかは、その牛の通常を理解していなければ気づくことができません。通常あっての異常です。何かいつもと違うことが異常なのです。小さな変化を発見するには、常にその牛のスタンダードを正確に把握しておく必要があります。
もちろん牛だけに限ったことではありません。機械の状態、気象環境、土地の地盤、妻の機嫌、自分の体調…。すべてに、「いつもはこうだ」というスタンダードな状態があります。
自分と接する物事に対して日頃から誠意をもってよく観察し、本質を理解しようと努めることで、わずかな違和感に反応することができるのです。
